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edit 関根 聖二

文系でも理解できる教育DX:ラーニングアナリティクス編 (Edtech#1)

教育DX
DXが叫ばれているのはビジネスの世界だけではありません。弊社もむしろ、ビジネスDXの時代より以前から「教育DX」の開発に携わってきました。

国をあげて動き出している教育DX。そしてそこから派生する「ラーニングアナリティクス」。。。
とはいえ、以下のようなご意見もあるかもしれません。
「教育関係者として理解しておきたいけど、今さら人に聞けない・・・」
「調べようとしてもシステムがらみの記事ばかりで、文系の自分には理解しがたい」
そこで今回は、教育DXとは切っても切り離せない「ラーニングアナリティクス」の概要について、文系人間の私から、文系的な文脈で可能な限りわかりやすく解説させていただきます。

【目次】

  1. 日本の教育DX
  2. ラーニングアナリティクスとは
  3. ラーニングアナリティクスでどのようなデータを集めるか?
  4. 集めた学習行動データを分析してどう利用するのか?
  5. 学習行動データ利用の具体例
  6. ラーニングアナリティクスを実現するためのシステム構成は?

 

日本の教育DX

日本での教育DXもようやく国をあげて動きが活発化してきました。
これまでなかなか進まなかった教育DXですが、日経新聞の記事によると2024年度から、英語を皮切りに国費負担で導入されるようです。

デジタル教科書導入 学校教育、DXへ一歩(日本経済新聞 2022年8月26日)
電子端末で使うデジタル教科書が2024年度から順次、小中学校の英語と算数・数学で導入される。中央教育審議会の作業部会が25日、文部科学省が示した方針案を大筋で了承した。

特に英語はネイティブスピーカーの音声が聞けるなど、デジタルを活用するメリットが大きい科目ですね。

デジタル教材のメリットとして他に、アナログの一斉授業と違い、生徒の理解度に合わせて、個別のペースで学習を進められるところも挙げられています。

2020年以降はパンデミックの影響で対面授業が減り、オンライン授業の重要性が益々認められ、今まで腰の重かった一部の先生方や学校も、オンライン授業に取り組むきっかけができました。これが教育DXを本格的に進める後押しになったとも言えるでしょう。

動画や音声が利用できる、オンラインで学べる、個々のペースで進められるなど、教育DXには様々なメリットがありますが、これらは授業の中で起こっているものであり、実は授業の外で得られるメリットも、非常に大きなものがあります。

それが「ラーニングアナリティクス(学習分析)」です。
 

 

ラーニングアナリティクスとは

ラーニングアナリティクスとは、生徒の学習行動というビッグデータ(学習プロセスデータ)を収集、分析することを言います。そしてその結果を教育現場にフィードバックし、学習効果の向上・学習支援などに活かそうという試みです。

ラーニングアナリティクスが一般的になる前にも、教育工学の研究分野では以前から学習分析が活用されていました。

弊社でも2004年頃から教育工学分野での研究プロジェクトに関わってきましたが、その頃からすでにラーニングアナリティクスは教育工学研究にとって必須の要素でした。
とはいえ当時はまだガラケーの時代。回線も今のように早くなかったので、 まだ eラーニングは一般的に普及していませんでした。 Google Analytics の初版が公開されたのが2005年11月ですので、ラーニングアナリティクスどころか、WEBサイトのアクセス分析でさえ、まだ今のようには普及していない時代でした。
ラーニングアナリティクスではもちろん今のように標準化されたものはなく、UI上での学習者の行動(閲覧、入力、クリック、ドラッグなど)をログとしてデータベースに格納し、研究報告の際にDBから取り出したログを利用するというものでした。

しかし今後は研究分野に限らず、一般的な教育現場でもラーニングアナリティクスを活用し、分析結果をもとにした「エビデンスに基づく教育」というものが、普及してゆくと思われます。

実際に、2016年には教育・学習の改善に資するラーニングアナリティクス研究に関する世界最先端拠点となることをミッションとして、九州大学にラーニングアナリティクスセンターが設立され、国内でも「ラーニングアナリティクス」への注目度が高まりました。

Communication

このように、教育DXの流れでより注目を集めることになっているラーニングアナリティクス。ここからは具体的にどのようなビッグデータを集め、誰がどのように利用し、どのような効果を生み出すのかをお話します。
 

 

ラーニングアナリティクスでどのようなデータを集めるか?

まず、ラーニングアナリティクスで取得する学習プロセスのデータにはどのようなものがあるのでしょうか。

文部科学省のサイトで公開されている「教育データの利活用に関する有識者会議(第3回)」での会議資料が参考になりますので表を引用させていただきます。

どのようなデータを収集するのか?

区分 データの種類 説明
授業・学習系
データ
学習支援システム
学習履歴
デジタル教材閲覧履歴、LMS等の利用履歴、デジタルノートの内容・履歴
デジタルドリル
学習履歴
デジタルドリルの回答や正答率等
学習者アンケート
結果
学習者に対するアンケート結果
校務系データ 学籍情報 学習者の学年等の基本情報
出欠席情報 学習者の日々の出欠情報
指導計画情報 授業ごとの指導計画やシラバス
テスト結果 小テストや定期テスト等の結果
成績評定情報 通知表や単位取得等の評定結果
教員アンケート
結果
教員に対するアンケート結果
健康観察記録 学級担任等が朝に行う児童生徒の健康状態を確認した記録
日常所見情報 児童生徒の日々の様子や気付いた点などを記録した情報
保健室利用記録 児童生徒が保健室に来室した記録

(教育データの利活用に関する有識者会議(第3回)会議資料「教育データの利用について」 京都大学 学術情報メディアセンター 緒方 広明 2020、P5)

ここにあるように教材の閲覧時間やドリルの結果、小テストなどの結果もありますが、細かいところでは文章のどこに下線(やハイライト)を引いたか、どのようなメモを書き込んだか、どのページで詰まったか(時間がかかったか)などのデータも、データベースに蓄積してゆくことができます。
 

 

集めた学習行動データを分析してどう利用するのか?

では、このように集めた学習行動のビッグデータを具体的に誰がどう利用するのか?
こちらも文部科学省の同会議での資料が参考になりますので、表を引用させていただきます。

どのようにデータを利用するか?

対象 誰のため 目的の例
個人 学習者 個人に適した教材や問題の推薦による学習効果の向上
過去や現在の学習データを用いた、理解度の予測などによる、個人の学習状況の把握
教員 クラス全体や個々の学習者のつまずき箇所の発見などによる教材や授業設計の改善
自動採点など、学習データの利用による教員の負荷の軽減
保護者 自分の子供の学習状況、学習意欲などの把握
教育機関 組織の管理者 学習データに基づくカリキュラムの最適化
教員や学習者の最適な配置
国全体 政策立案者 エビデンスに基づく教育政策の立案と評価
研究者 大規模な学習データ、教育学、心理学など様々な分野から分析して、デジタル環境における新しい教育・学習理論や現象などを研究
市民 教育に関する諸問題をデータを用いて社会全体で議論

(教育データの利活用に関する有識者会議(第3回)会議資料「教育データの利用について」 都大学 学術情報メディアセンター 緒方 広明 2020、P6)

表のように、学習ビッグデータを利用して、学習者の理解度により教材や問題を推薦したり、教員に対して学習者のつまづき箇所を認知させたり、保護者が学習状況や学習意欲を把握したりすることができます。
また、教育機関はこれらのデータをもとにカリキュラムの最適化や教員・学習者の最適配置に活用することができます。
さらにはの教育政策の立案や評価にも活用することができるのです。
 

 

学習行動データ利用の具体例

学習者の学習行動をデータベース化してどのように利用されているのか。具体的な例を挙た方がわかりやすいかもしれません。
例えば自分の学習行動を、昨年同学年だった先輩の学習行動と比較することができます。とはいえ「〇〇先輩」という個人を引き合いに出すわけにはいきませんので、成績ランク別の学習行動の平均値と比較できるようにします。
これをきっかけに、学生は以下のような気づきを得ることができるかもしれません。

「今回の定期テストについて、Aランクの成績をとった先輩は自分より早い時期から教材を閲覧していた。自分と同じ時期に教材を閲覧し始めた先輩はDランクの成績をとっている。このままではまずい!」

これで次回のテストにはもっと早く学習行動を開始することは間違いありません(忘れていなければ・・・)。

「次回テストで改善するのでは遅すぎる!」というご意見も聞こえてきます。

それであれば、システムを利用してもう少し早い段階で気づきを与えることも可能です。
学習行動が遅れている場合は、「昨年Aランクの成績をとった先輩はこの時期すでに3ページ目まで学習が進んでいますよ!」という通知を送れば、より早い行動を促せるでしょう。

MV01
 

 

ラーニングアナリティクスを実現するためのシステム構成は?

このように学習者(生徒)、教員、保護者、教育機関、さらには国全体にまでメリットをもたらすラーニングアナリティクス。

実際にこれを実現するための環境(システム)づくりはどうおこなうのかにご興味をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

現在ではラーニングアナリティクスを実現するために様々なプラットフォームが用意されています。ラーニングアナリティクスを実現するための一般的なシステムの構成を具体的に説明すると、以下のようになります。(ここはあえて文系的な文脈で書いていません)

LTIでLMSや教材・ツールなどをまとめ、LRSにxAPI形式でデータを保持することでラーニングアナリティクスの環境を構築する。

初めてラーニングアナリティクスのシステムに携わろうとしている方からすれば、これでは何を言っているかわからないと思います。ましてや私のような文系人間にはさっぱり理解できません。とはいえ弊社でも、ラーニングアナリティクス関連のご相談は多くいただいておりますので、ここから先は次回以降の記事で、一つひとつかみ砕いて説明させていただきます。
この記事ではラーニングアナリティクスの概要をご理解いただければ嬉しいです。
次回の記事では「 LTI 」について解説いたします。

スパイスワークスの教育DXおよびラーニングアナリティクスにおけるシステム構築とUIデザインの実績はこちらをご覧ください。


【出典・参考文献】
・日本経済新聞社 : デジタル教科書導入 学校教育、DXへ一歩 2022年8月26日 2:00
九州大学ラーニングアナリティクスセンター
・文部科学省 : 教育データの利活用に関する有識者会議(第3回)会議資料 / 【資料1】緒方委員 発表資料