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edit 関根 聖二

【図解】ラーニングアナリティクス環境構築の流れ (Edtech#18)

エビデンスに基づいた学習環境の改善を行うことで、学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させるために重要な位置づけとされるラーニングアナリティクス。

この記事では、以下のような方に向けて、ラーニングアナリティクス環境を構築するワークフローを解説します。
当校でもラーニングアナリティクスを導入したいけど、なかなか第一歩を踏み出せない
ラーニングアナリティクスを導入したいけど、何から始めればいいかわからない

【 目次 】

  1. ラーニングアナリティクスとは
  2. ラーニングアナリティクスが進まない理由
  3. ① プランを立てる
  4. ② チームを作る
  5. ③ 教材やツールをまとめる : LTI
  6. ④ 学習行動データを標準化する : xAPI
  7. ⑤ 学習行動データを蓄積する : LRS
  8. ⑥ 学習行動を可視化する : 教育ダッシュボード
  9. ⑦ 教育ダッシュボードのUI設計プロセス
  10. ⑧ 教育ダッシュボードのUI実装
  11. ⑨ 外部の教材と連携する : Deep Linking (ディープリンク)
  12. まとめ

 

 

ラーニングアナリティクスとは

ラーニングアナリティクスとは生徒の学習行動というビッグデータ(学習行動履歴データ)を収集、分析することを言います。そしてその結果を教育現場にフィードバックし、学習効果の向上・学習支援・教員の負担軽減などに活かそうという試みです。

学生の学習行動をデータとして蓄積し、それを分析して教材の改善や教員の配置など、学習環境の向上につなげます。

文部科学省が公開している資料「教育データの利活用について(初等中等教育局 学びの先端技術活用推進室)」でも、「先端技術・教育ビッグデータの効果的な活用とICT環境の整備について取り組むべき方策」として、「データによる学習分析(ラーニングアナリティクス)」によって「学習効果を向上する要因等をデータから分析する」ことで、「教育ビッグデータを活用した個別最適な学びの実現」を達成するという内容を公表(スライドP3)しています。

ラーニングアナリティクスでどのようなデータを取得してどう活用するか、具体な内容はこちらをご覧ください。
 

 

ラーニングアナリティクスが進まない理由

文部科学省でも「教育データの利活用に関する有識者会議」が度々開催され、ラーニングアナリティクスによって学生の学習効果の最大化や教員の負担軽減につなげるよう、国をあげて取り組まれています。

とはいえ実際にラーニングアナリティクスが導入されているのは、まだ一部の先端的な教育機関にすぎません。

有効性が検証されているにもかかわらず導入がなかなか進まない理由には、専門的な知識が必要ということと、人的リソースの不足が考えられます。

とはいえ、シンプルに一つひとつの工程をとらえていけば、ラーニングアナリティクス環境の構築はそこまでハードルの高いものではありません

この記事では、スパイスワークスがこれまで取り組んできた教育DX プロジェクトの経験をもとに、「教育データの利活用」を目的としたラーニングアナリティクスのシステム構築フローについて解説します。

この記事は総集編的な内容としており、この記事だけを読んでもラーニングアナリティクスのシステム構築の流れを把握できるようにしていますが、より詳細について知りたい方は各項目からのリンクをご欄ください。

以下がラーニングアナリティクス環境の構築フローを図解したものとなります。この後はこの図の内容をもとに、各プロセスについてご紹介します。

ラーニングアナリティクス構築の流れ

ラーニングアナリティクス環境のシステム構築フロー図

まずは上のフロー図の最上部、「プランを立てる」ところからはじめましょう。
 

 

①プランを立てる

ラーニングアナリティクスのシステムを導入する最初のステップは、計画を立てることです。

ここでの目標は、システムの目的と、ラーニングアナリティクスの開発に必要なプロセスを明確にすることです。

そのプロセスを、「ラーニングアナリティクス環境の開発」という大きな枠でとらえ、要件定義、システムの設計、開発などの工程を組んでしまうと、スタート地点からとてもボリュームの大きいプロジェクトを想定しなければなりません。

これが原因で最初の一歩を踏み出せずにいるケースも多いと思います。

しかし要素を分解すればシンプルになり、よりクリアな見通しを立てられると思います。

ラーニングアナリティクスのシステム構築フローを以下のような5つのプロセスに分け、それぞれを着実に進めれば、ラーニングアナリティクス環境の構築は難しいものではありません。

1.プランを立てる

2.プロジェクトチームを作る

3.教材やツールをまとめる

4.学習行動データを蓄積する

5.取得した学習行動データを可視化する

1.2. は準備段階、3.6. はシステム開発のフェーズとなります。

ですが、システム開発も一気通貫で実施する必要はありません。

まずは3.を実施したら一旦リリース(学内で公開)することをお勧めします。
教材やツールをまとめる」ことで、今までパスワードなどをそれぞれ管理しなければならなかった教材を、シームレスに利用できるようになるので、教員・学生は利便性を享受することができます。

そうなれば本プロジェクトを前向きに応援してくれる人も増えるでしょう。

これで学内の理解を得つつ、4.5.を進めることが可能です。
5.までくれば学生の学習行動が可視化されるので、この段階でさらに教員・学生の利便性が向上します。

そしてその段階まで進めば、

6.外部の教材とリンクする

というオプションも加わり、教員は外部にある幅広い教材やテストを活用することで、負担を軽減できるようになります。

また学生が外部の教材を利用したデータも学内に蓄積できるようになり、取得できる学習データの幅が広がります。

このように、一気通貫でシステムを開発してからリリースするのではなく、少しずつ学内のステークホルダーに利便性を感じてもらい、学内を巻き込みつつプロジェクトを進められるのが、今回ご紹介しているワークフローの特徴です。

さらに、段階を経てリリースすることで、教育DXによるデジタル化についての、現場での学習機会を提供することができます。
学生には案外スムーズにデジタル化を受け入れられるものですが、教員の一部には抵抗感がある方もいます。一度に全体がデジタル化されるのではなく、徐々に適応を促しながらデジタル化を進めることで、教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)によるコンフリクトを最小化することができます。

上記1.6.のプロセスで進めるプランをおおよそ把握できたら、「2.プロジェクトチームを作る」に進みましょう。

※プランを立てる工程について、詳細はこちらの記事をご参照ください。
ラーニングアナリティクスの始め方①プランを立てる
 

 

②チームを作る

システムの明確な目的と開発プロセスが決まったら、それを実施するプロジェクトチームを構築します。

現状はこの「チームを作る」という部分が、大きなハードルとなっている教育機関も多いように思われますので、チーム構築について、できるだけシンプルに解説します。

一般的には以下のようなチーム構成が必要と考えられることが多いでしょう。

1. データサイエンティスト
データの収集、整理、分析を担当する専門家です。統計学やシステムに関する知識が求められます。

2. 教育専門家
教育理論や学習プロセスに詳しい専門家または教員で、収集されたデータが教育現場でどのように役立つかを考慮します。

3. ITエンジニア
システムの開発と運用を担当するエンジニアです。データベースの管理、インフラの整備、セキュリティ対策などを行います。

4. UIデザイナー
システムのユーザーインターフェイスデザインを担当するデザイナーです。使いやすいシステムのUIを設計します。

5. プロジェクト・マネジャー
チーム全体の進行管理を行う役割です。プロジェクトのスケジュール管理、タスクの割り振り、コミュニケーションの円滑化を図ります。

6. LMS 管理者
Moodle, Sakai, Blackboard, Canvas などの LMS とシステムを連携する必要がありますので、プロジェクトのいくつかのフェーズでLMS管理者に参加してもらう必要があります。

これを見れば、人的リソースの部分で敷居が高く感じられるのも無理はありません。
大学であってもこれだけの「動けるメンバー」を用意するのは容易ではないでしょう。

確かに、私たちが携わってきたラーニングアナリティクスの研究段階では、このようなチーム構成が必用でした。
それぞれのメンバーを用意するというより、スーパーハイスペックな教育工学の研究者が、一人何役をこなすことでまかなっている状況でした。

しかし今では、すでに様々な研究が行われ、ありがたいことに、その知見が閲覧できるかたちで公開されています。

それらの論文を見れば、どのようなデータを取得して、どのように可視化すればよいかのノウハウが紹介されています。

その知見を活用することで、学内では3分野のメンバーを用意できれば、ラーニングアナリティクス導入プロジェクトを成立させることが可能です。

2. 教育専門家(教員)
5. プロジェクト・マネジャー
6. LMS 管理者(一部の期間)

教育機関であれば、実現可能なチーム構成ではないでしょうか。

1. データサイエンティスト」が必用なように感じられるかもしれませんが、こちらも研究目的のラーニングアナリティクス導入でなければ、過去の研究成果から吸収できることが多いです。

それらをもとに、学生や現場の教員が閲覧しやすいよう学習行動データを可視化すれば、専門家でなくてもグラフやチャートを閲覧することで学習行動を把握することができます。

むしろ重要なのは、データサイエンスや統計学の専門家でなくても、学習行動データを分析できるユーザーインターフェイスを実現することです。

学内で必要となる3分野(教育専門家、プロジェクト・マネジャー、LMS 管理者)以外は、アウトソーシングすることが可能です。

ラーニングアナリティクス研究やその技術標準に知見があり、ITエンジニアや UIデザイナーを抱えている外部パートナーを選定すれば、チームづくりのハードルは一気に下がります。

ここで注意が必要なのは、ただシステム開発の技術が高いだけではなく、 LTI, xAPI, LRS など教育DX関連の技術標準に詳しい開発会社を選ぶ必要があるということです。

チームを作る:ラーニングアナリティクス環境構築

※チーム構築についての詳細はこちらをご覧ください。
・ラーニングアナリティクスの始め方②チームを作る
 

 

③教材やツールをまとめる : LTI

様々な教材やツールで学ぶ学習者の行動

ラーニングアナリティクスシステムを効果的に機能させるためには、LTI (Learning Tools Interoperability)を活用して、教材やツール*を統合することが重要です。LTIは、異なるプラットフォーム間でデータをシームレスに共有するための標準仕様です。

ツールとは?

ラーニングアナリティクスが進まない理由」のところで、ラーニングアナリティクス環境の構築は、「要素を分解すればシンプルになり、よりクリアな見通しを立てられる」ようになるというお話をしました。

その「要素」の中で、システム開発部分の最初の一つであり、軸となるプロセスが「 LTI によって教材やツールをまとめる」ことです。

「教育データの利活用」のために学習行動データを収集して教育の改善に活かすといっても、教材やツールがバラバラに存在していたら、データもそれぞれの教材やツールのところに、それぞれのフォーマットで集まり、分析に膨大な時間と手間がかかってしまいます。

これでは「学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させる」という教育データの利活用の目的が成り立たなくなってしまいます。

ラーニングアナリティクスの目的は「データを収集して分析する」ことではなく、「学習効果を最大化させる」ことと「教育の負担を最小化させる」ことなので、分析の手間を最低限にできるシステムの設計が重要です。

そこでまず手を付けるべきことが、 LTI の導入です。

【LTIの導入メリット】
LTIを導入することで、以下のようなメリットがあります。

データの統一管理:
異なるプラットフォームからのデータを一元的に管理できます。

ユーザーエクスペリエンスの向上:
学習者は複数のツールにそれぞれログインする必要がなく、シングルサインオンで、一つのツールを利用しているかのようにシームレスに教材間を移動できます。

LTIのシングルサインオンでシームレスに

開発コストの削減:
既存のツールや教材を統合することで、新たなシステム開発のコストを削減できます。

※LTI についてさらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
LTIとは?文系でもこれだけで理解できる図式「教育DX」

【LTI化の実装方法】
LTIの実装には、以下のステップが含まれます。

1.ツールの選定:
どの教材やツールを LTI化するかを選定します。
一度に全てのツールを LTI 化することもできますし、試験的にいくつかのツールから始めてみる方法もよいと思います。

最初に LTI 化するツールとしては eBook 教材がおすすめです。
eBook 教材は多くの学生が利用する汎用的なツールなので、日常の学習における利便性が高まると同時に、多くのデータを取得できることにもなります。

2.業者選定:
LTI に知見がある開発会社を選定します。
LTI, xAPI, LRS など、教育DXに関する技術標準に精通している必要があります。

3.システム設計:
LTI 化のみでなく、その先にあるプロセスの、 LRS へのデータ蓄積、外部教材の連携なども見据えた設計が必用です。
技術標準に関する専門的な知識が必用なので、設計をリードできる開発パートナーの選定が重要です。

4.システム開発:
既存の教材やツールをまとめるには柔軟な対応が必用です。
アジャイル開発のように臨機応変に実装やテストを進める方法が望ましいです。

5.テスト:
学習で利用するサーバーとは別のテスト環境を用意し、学内の教材やツールに影響を与えないところで十分にテストを行います。

6.リリース:
多くの教材を一度に LTI化する場合、リリースするタイミングは、可能であれば学生の休暇期間がよいでしょう。一時的にシステムを止める必要がありますし、休暇期間であればエラーが発生した時の対処についてもリスクを避けることができます。

一部の教材のみの LTI化であれば、その授業のスケジュールを見て、学生の利用が少ないタイミングでリリースすれば問題ありません。

※教材やツールのLTI化について、詳しい手順はこちらをご参照ください。
ラーニングアナリティクスのはじめ方③ LTI:教材やツールをまとめる
 

 

④学習行動データを標準化する : xAPI

ツールや教材の LTI 化が完了したら、いままでバラバラに存在していたツールがまとまり、データを一か所に集約するための準備が整います。

データを蓄積する際の形式を選択するのは自由ですが、将来的なことを考えると技術標準に合わせておくことをお勧めします。そこで活用するのが xAPI です。

xAPI (Experience API)は、学習者の行動データを標準化するための仕様です。xAPIを使用することで、多様な学習活動のデータを一貫して収集し、分析することが可能になります。

【xAPIの特徴】
xAPIは、以下のような特徴を持っています。

柔軟性:
あらゆるタイプの学習経験を記録することができます。

互換性:
異なるシステム間でデータを共有しやすくします。

リアルタイム性:
学習活動のデータをリアルタイムで収集し、分析できます。

【xAPIの実装方法】
xAPIの実装には、以下のステップが含まれます。

取得するデータの選択:
前述のように、xAPI ではあらゆる学習経験データを記録することができます。
学生が訪れたページやその時間だけでなく、eBook 教材にハイライトした箇所、ハイライトの色、手書きメモ、その他多岐に渡るデータを蓄積することが可能です。

実際に私たちが教育工学の研究プロジェクトでデータを収集する際は、教育インターフェイスが及ぼす学習効果を実証するために、あらゆるデータを取得します。

ウェアラブル端末から取得するデータ

しかし、あらゆるデータを取得すれば、その分サーバとのデータ通信頻度が増えますし、蓄積するデータ量も膨大になります。

これによって学習環境の動作が遅くなるなど、悪い影響が出てしまっては本末転倒ですので、研究目的ではない通常のラーニングアナリティクスは、取得するデータを取捨選択することも必要です。

どのデータを取得するかは、過去のラーニングアナリティクス研究の知見を持っている開発会社であれば、相談しながら進めることができます。

データ収集システムの構築:
xAPI 形式で取得したデータを蓄積する場所を構築します。詳しくは次の「 LRS 」の項目で解説します。

※ xAPIの詳細についてはこちらをご覧ください。
ラーニングアナリティクスのはじめ方④ xAPI:学習行動データを標準化する
 

 

⑤学習行動データを蓄積する : LRS

LRS (Learning Record Store) は、学習者の行動データを蓄積するためのデータベースです。

xAPI 形式で収集した、あらゆる学習活動のデータを LRS で一元管理します。

【LRSの役割】
LRSは、以下の役割を果たします。

データの蓄積:
xAPI形式で収集したデータを蓄積します。

データの管理:
蓄積されたデータを管理し、必要なときにアクセスできるようにします。

データの共有:
必要に応じて、他のシステムやツールとデータを共有します。

【LRSの選定と実装】
LRSの選定と実装には、以下のステップが含まれます。

LRSの選定:
技術標準に準拠した LRS を独自に構築することもできますし、オープンソースなど、既存のサービスを利用することもできます。
xAPI に準拠した LRS のオープンソースとしては、 Learning Locker があります。

LRSの実装:
選定したLRSをシステムに導入し、データ収集の仕組みを構築します。
xAPI 形式で、学習行動データを LRS に蓄積できるよう、ツール側のシステム改修を行います。

※LRSの詳細はこちらをご覧ください。
ラーニングアナリティクスのはじめ方⑤ LRS:学習行動データを蓄積する
 

 

⑥学習行動を可視化する : 教育ダッシュボード

LRS に蓄積されたデータを視覚化するためには、教育ダッシュボードが必要です。教育ダッシュボードは、学習者の進捗状況や成果を直感的に把握するためのツールです。

ダッシュボード( Dashboard )

データサイエンティストや研究者、統計の専門家であれば、 LRS に蓄積したデータを直接分析することが可能でしょう。

しかしデータベースのままでは、専門的な知識がないと学習行動を分析することができません。

せっかく蓄積されたデータですから、誰もが活用できるように「民主化」することをお勧めします。なぜなら教育データの民主化によって、以下のような効果が生れるからです。

一般の教師がデータを活用して授業の進行や教材の内容を改善できる

学生がデータをもとに内省して学習行動を改善することができる

このように学習行動を可視化し、民主化することで、ポジティブな可能性が広がります。
※学生向けには個人情報を伏せるなど、データの取り扱いには配慮が必要です。

実際に東京都でも2024年1月に、都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始を公表しました。

誰もがデータを活用できるよう、教育ダッシュボードを用意することをお勧めします。

【教育ダッシュボードの重要性】
教育ダッシュボードは、以下の理由で重要です。

視覚化:
複雑なデータを視覚的に表現し、理解しやすくします。

リアルタイム性:
学習者の進捗をリアルタイムで把握できます。

意思決定支援:
教育者がデータに基づいた意思決定を行うのに役立ちます。
学生が自分の学習行動を内省するのに役立ちます。

【ダッシュボードの設計】
ダッシュボードの設計において重要な要素として、以下の内容が含まれます。

UI/UXの設計:
ユーザーが直感的に操作できるように、使いやすいUI/UXを設計します。

シンプルさ:
情報を過度に詰め込まず、必要な情報を簡潔に表示します。

ナビゲーション:
ユーザーが必要な情報に簡単にアクセスできるよう、明確なナビゲーションを提供します。

【データの視覚化】
データを視覚的に表現するために、以下の要素を使用します。

グラフとチャート:
データを視覚的に表現するために、折れ線グラフ、棒グラフ、円グラフなどを使用します。

棒グラフ、折れ線グラフ

円グラフ、帯グラフ

色彩の工夫:
情報をわかりやすく伝えるために、適切な色彩を使用します。

アクセス時間ヒートマップ

※教育ダッシュボードついて、詳しくはこちらをご参照ください。
ラーニングアナリティクスのはじめ方⑥教育ダッシュボード:学習行動を可視化する
 

 

⑦教育ダッシュボードのUI設計プロセス

教育ダッシュボードのユーザーインターフェース(UI)は、ユーザー(教員や学生)がデータから簡単に学習行動履歴を把握できるように設計する必要があります。

UI設計のプロセスをシンプルに整理すると以下のようになります。

1.ターゲットの特定
まずはターゲットを明確にします。
今回の場合、教育ダッシュボードを利用するターゲットは、「教員」と「学生」と設定できるでしょう。

2.ターゲットのゴール設定
ターゲットが教員と学生の2者に分かれるので、ゴールもそれぞれに設定します。

3.ゴールまでのルート設定
教員、学生がそれぞれのゴールに向かうにあたり、どのような情報をどう利用するかを想定します。

4.情報の整理
ターゲットが学習行動データをもとに必要な情報を得やすいよう、掲載する情報を選択し、情報の見せ方を検討します。

この際に教員、学生のダッシュボードを分けるかどうかの検討も必要です。それぞれゴールとそこに到達するルートが違うので、可能であれば分ける方が理想的です。

5.UI の実装
教育ダッシュボードに掲載する情報とその見せ方が決まったら、UIを実装します。

【ユーザーのニーズ分析】
ユーザーのニーズを分析し、どのような情報が必要か、どのように表示されるべきかを明確にします。ユーザーインタビューやアンケートを通じて、具体的な要件を収集する方法もあります。

UI設計のプロセスについて、詳しくはこちらをご覧ください。
ラーニングアナリティクスのはじめ方⑦UI設計:教育ダッシュボードのUI設計プロセス
 

 

⑧教育ダッシュボードのUI実装

前項の「教育ダッシュボードの設計プロセス」で教育ダッシュボードを利用するターゲットとして「教員」と「学生」をあげました。

ここではそのターゲットの「ゴール設定」から解説します。

2.ターゲットのゴール設定
ターゲットが「教員」と「学生」の2者に分かれますので、ゴールについてもそれぞれ設定する必要があります。

〇教員のゴール設定
まず教員については、前述の都立学校の例(都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始について)をあげると、教員のゴール(目的)は以下のように設定されているようです。

教員の経験に加えて、データに基づく指導を実現することで、子供たち一人ひとりの力を最大限伸ばしていくことを目的としています。
(東京都教育委員会:都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始について)

具体的な活用例としては以下のように書かれています。

授業内外における生徒一人ひとりの端末を利用した活動状況を一覧で確認することで、担任の教員が支援を必要とする生徒を発見し、個別に声掛けする際の判断材料などに活用します。
(東京都教育委員会:都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始について)

教育ダッシュボード

東京都教育委員会:「教育ダッシュボード」とはの「活用イメージ」をもとに図を作成

このことから、学生の学習行動データを可視化したダッシュボードを教員が使うことでのゴールは以下のように考えることができるでしょう。

教員の経験だけでなくデータに基づいて、子供一人ひとりの特性や学習進度、学習到達度に応じた指導ができるようになる。

これで教員のゴールを設定することができました。

〇学生のゴール設定
学生のゴールは、「自己調整学習」の実現と考えてよいと思います。

文部科学省のサイトでは「データの可視化」と「自己調整学習」について、以下のように述べられています。

学習履歴(スタディ・ログ)、生活・健康面の記録(ライフログ)等、児童生徒に関する様々なデータを可視化し、学習方法等を提案するツールなど、新たな情報手段の活用も考えられますが、そのような新たな情報手段の活用も含め、児童生徒が自らの状態を様々なデータも活用しながら把握し、自らに合った学習の進め方を考えることができるよう、教師による指導を工夫していくことが重要です。
文部科学省:育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び

ここでは「児童生徒が自らの状態を様々なデータも活用しながら把握し、自らに合った学習の進め方を考えることができるよう、教師による指導を工夫していくことが重要」としていますが、高等教育以上などある程度の年齢になれば、教師の指導を待たずして学生が自らデータ活用できる範囲が広がります。

学生が教育ダッシュボードを閲覧することで、自己調整学習できる環境を実現する」ことを、学生のゴールと設定して問題ないと思います。

3.ゴールまでのルート設定
教員・学生それぞれのゴール設定ができたら、それぞれがゴールに到達するまでのルートを想定します。

〇教員のゴール達成ルート
教員のゴールとして「教員の経験だけでなくデータに基づいて、子供一人ひとりの特性や学習進度、学習到達度に応じた指導ができるようになる。」ということを設定しました。

ここに到達するための教員のルートですが、一度教育ダッシュボードを見て、子供一人ひとりの特性や学習進度、学習到達に応じた指導ができるようになるとは思えません。

「ダッシュボードの情報をもとに立てた仮説を実際の教育現場で実証し、その結果を見て改善する」という行動を、何度か繰り返す “PDCA サイクル” を回すことになるでしょう。

こういったルートを想定すると、教育ダッシュボードがこの PDCA サイクルをサポートするために、教員が仮説を立てやすく、実証後にその効果を確認しやすいインターフェイスを用意することが重要だとわかります。

それでは実際の PDCA を想定してみましょう。

Plan:
成績の思わしくない学生の学習行動パターンと、成績の良い学生の学習行動パターンを教育ダッシュボードのデータから比較して、成績の思わしくない学生の、どの学習行動を改善すればよいかの仮説を立てる。

Do:
実際に成績の思わしくない学生の学習行動が変わるよう、サポートする。

Check:
成績の思わしくない学生の学習行動が変わったか、また成績が改善したかを教育ダッシュボードのデータで確認する。

Action:
仮説と結果をもとに、カリキュラムやファシリテーションを改善する。

〇学生のゴール達成ルート
学生も教員同様、一度教育ダッシュボードを見るだけでなく、仮説と実証を繰り返す PDCA サイクルを回すことになるでしょう。

Plan:
現在のデータをもとに、いつ、どれくらいの時間、どのような内容をどのような環境で学習すれば成績が向上するかという仮説をもとに、学習計画を立てる。

Do:
計画をもとに学習を実施する。

Check:
学習計画をどの程度実施できたか、ダッシュボードで確認し、評価・内省(リフレクション)する。

Action:
リフレクションの内容をもとに改善策を立てる(計画の修正、実行方法や環境の修正)。

具体的な事例として、スパイスワークスが開発を担当させていただいた「学習計画管理アプリ MAI Helper (九州大学 山田政寛研究室)」は、ラーニングアナリティクスのアプローチに基づいて、学習者⾃⾝が⾃らの学習計画を⽴て、⾏動を振り返る行動を支援することを目的としたアプリケーションとなっています。
【論文】MAI Helper: Learning Support System for Time Management Skill Acquisition Using Learning Analytics

4.情報の整理
ターゲットを明確にして、そのターゲットのゴールを設定、ゴールまでのルートが想定できたら、そのターゲットがどのような情報を得られれば、ダッシュボードの情報がゴールまでのルートをサポートできるかを検討することができます。

データの可視化

例えば教員が PDCA に活用するには、成績の良い学生とそうでない学生の学習行動を比較できる情報が必用かもしれません。
その情報は、学習開始のタイミング、学習するポイントや学習する方法(線を引くなどの行動)かもしれません。
そのように想定すれば、教育ダッシュボードに必要とされる情報や、その見せ方を設計することができます。

ここでは必要な情報を精査する必要があります。
情報量が多すぎるとユーザーが迷ってしまうので、ラーニングアナリティクスの知見を持った開発会社などと相談するのがよいと思います。

5.UI の実装
教育ダッシュボードに掲載する情報が決まったら、具体的な UI の実装に入ります。

情報が決まったからと言って、すぐにそれを可視化できるわけではありません。
例えば学生が週の中のどのタイミングで学習しているのかを知るのには、棒グラフがよいのか、あるいは折れ線グラフかヒートマップかなど、一つひとつの情報をどのように見せるのか、その用途に応じて設計する必要があります。

開発会社に UI/UX の専門家がいれば相談することが可能です。

UI実装の詳細はこちらをご覧ください。
ラーニングアナリティクスのはじめ方⑧UI実装:教育ダッシュボードのUI実装
 

 

⑨ 外部の教材と連携する : Deep Linking (ディープリンク)

最後に、Deep Linking や、それと関連した AGS, NRPS をご紹介します。
これらにより外部の教材とのデータ連携が可能となります。

実は学習行動データを LRS に蓄積して教育ダッシュボードで可視化できる段階になれば、その時点で学内においては、ラーニングアナリティクス環境が整っていることになります。

Deeplinking や AGS, NRPS についてはその環境をさらに、外部教材へと拡充する内容となります。

教材を LTI化(LTI1.3)したことで、外部教材を利用できる環境が整っているため、せっかくなら外部教材との連携を可能にするところまで進められることを推奨します。

外部教材と連携するにあたり、 Deep Linking という技術標準を利用します。

【Deep Linkingのメリット】
Deep Linking には、以下のようなメリットがあります。

シームレスなアクセス:
ユーザーが「特定のコンテンツ」に直接アクセスできるようにします。
教材の目次ではなく、教員が指定したページに生徒を直接誘導することが可能です。

【AGS のメリット】
AGS (Assignment and Grade Services) では、外部教材で実施したテストの結果を、学内のプラットフォーム*と外部ツール*の間で受け渡すことが可能となります。

ツールとプラットフォームとは?

【NRPS のメリット】
NRPS (Names and Role Provisioning Services) では、「名前」と「役割(生徒、教師、TAなど)」のデータをセキュアに受け渡すことができます。

Deep Linking, AGS, NRPS を活用すれば、テスト結果や名前の受け渡しができるので、外部で複数の学生が受講したテストのスコアボードを作成したり、その情報を学内に保存することも可能です。
 

 

まとめ

ラーニングアナリティクスのシステムを立ち上げるためには、計画、チーム編成、教材やツールの統合、データの標準化と蓄積、視覚化、UI設計と実装、そして外部リソースとの連携がポイントとなります。

それぞれのステップを慎重に進めることで、効果的なラーニングアナリティクスシステムを着実に構築することができます。

スパイスワークスではラーニングアナリティクス、教材やツールの LTI 化など、国内有数の実績と知見、多数の研究プロジェクトへの参加実績があります。

ご不明点やお困りのことがありましら、こちらからお気軽にご相談ください


【出典・参考文献】

・文部科学省:教育データの利活用について(初等中等教育局 学びの先端技術活用推進室)

・文部科学省:教育データの利活用に関する有識者会議

・東京都教育委員会:都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始について

・文部科学省:2.育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び